無線通信を用いたFA(Factory Automation)の実現には
日本におけるWi-Fi出力(空中線電力)は政府指針のもと10mW/MHzに厳しく制限されており、到達距離は長くても約50~100メートルと短いのが特徴。倉庫や工場と言った障害物の多い環境ではさらに短くなりがちです。海外に目を向けると1W/MHzの出力が可能な国や地域も珍しくなく、電波到達距離も200メートルから1キロほどにも達しており、日本と比べ少ないアクセスポイントでも低コストかつ短期で無線ネットワークを整備できるメリットがあり、そうした海外の国と比較すればコスト・タイムパフォーマンスとも劣っているのが現状。日本の産業競争力にも悪影響を及ぼしかねません。
工場や倉庫向けのWi-Fi出力の制限緩和の動き
そうした現状を踏まえ日本でもようやく重い腰を上げ、「長距離無線通信を活用した製造業向けFAソリューション実現」に関する検討会が9月中旬に開催されています。シスコシステムズ、ファーウェイ・ジャパン、ビーマップ、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)からなるメンバーにより、総務省へのWi-Fi出力制限緩和への働きかけや長距離無線通信技術を応用した製造現場における効率的な無線ネットワークの構築方法に関する活発な議論が交わされたのです。
キーとなる6GHz帯の活用策
近年登場した『6E』規格以降、5925~6245MHzの500MHz幅の24チャネルが割り当てられ、速度面や接続可能なチャネル数などの面では大きく改善されましたが、肝心の出力面では既存Wi-Fiと同等レベルのLPIモード(Low Power Indoor)とモバイルルーターや車内通信などの近距離通信に用いるVLPモード(Very Low Power)しか利用できません。
屋外利用が可能かつ既存Wi-Fiより高出力であるSPモード(Standard Power)を実現させない限り、利便性が高まらないと識者は指摘しており、将来的に見込まれる6GHz帯の6425~7125MHzの700MHz幅の割当は『7』規格のポテンシャルを発揮するうえでも欠かせません。
AFC(Automated Frequency Coordination:自動周波数調整)システムの必要性
上記SPモードや6GHz帯700MHz幅活用の実現に欠かせない要素となってくるのが他の無線システムとの周波数共用を行うAFCシステムの導入・運用。AP(アクセスポイント)を1日1回おきにAFCサーバーにアクセスさせ、利用可能な周波数の取得により発信周波数の制御を効率化するメカニズム。
1.2GHz幅をWi-Fiに割当済みかつ24年春に屋外利用も解禁した「6GHz帯Wi-Fi先進国」の米国でも、Wi-Fi割り当て済みの5925~6425MHz(500MHz幅)はAFCなしで利用できますが、放送事業や天文研究等と言った屋外においても使用されている6425~7125MHz(700MHz幅)はAFCシステムの利用が不可欠。
「AFCプロバイダー」と呼ばれる7社のサービスが提供され、システムの利用に際しては、同帯域を使う既存事業者(米国では衛星通信等)のデータベースを活用、事業者ごとに使用する周波数(チャネル)を管理。6GHz帯を使うWi-Fiアクセスポイント(AP)は1日に1回、AFCにチェックインしたうえ『このチャネルを使用してよいか』との確認をとり、接続しているのです。
AFCは現在クラウドサービスとして提供されており、問い合わせのリクエストに対して使用可能なチャネルと許容される最大出力を返答する有料サービスとなっています。
Wi-Fiを活用した業務FA化の実例
最後に省力化、品質管理レベルの高度化、従業員の安全確保・事故防止、効率的な技術伝承などを目指してAI/IoT技術を活用した工場の事例をご紹介します。15年に工場をWi-Fi化、効率化・生産性を向上させるツールの開発・導入を進め、全国9工場で4000台のカメラ導入、全社データを集約した情報活用基盤の整備、AIを活用した製造管理、在宅勤務も可能なプラント遠隔操作を実現しています。
センサーを利用した生産設備の兆候管理自動化の取り組みでは、設備のモーター減速機に振動センサーを取り付け、波形を取得。正常時と異常時の波形を分析して設備補完を行う閾値を設定、人手による点検作業の削減につなげています。無線によるシステム運用では工場の壁や柱に阻まれて頻繫にデータ欠損が発生するため、今はセンサーを有線接続していますが、 将来的には6E規格を活用して無線による低コストかつ短期でのシステム構築運用を実現させる方針です。