AI搭載PCの到来とOSアップデートの相関性

OS11は本年後半に大型アップデート「24H2」が予定されています。内部開発コードでは「Hudson Valley」と呼ばれるこのアップデートですが、「Sun Valley」と呼ばれたOS11登場以来の大規模な改変となるのか?今回はこの話題を取り上げ解説します。

WindowsOSの将来像

大規模な改変とすればユーザーインタフェース(UI)が変わるのかと予想される向きが多いかと思われますが、OS11からの大幅な変化はないものと見られています。Microsoftは「30年来の大きな変化」とアナウンスしていますが、「Coplilot(AI)」キーの採用に伴いWindowsOS上で動作するCopilotの各種機能がユーザーインタフェースへの変化をもたらすものと言われており、その動向が注目されます。

Copilot自体は現行OS11に既に搭載され、24H2の適用段階における変化は考えにくいのですが、OSベースが内部的に変化、目に見えない部分の変化を感じられるようになるのではと噂され、従来の大型アップデートとは一線を画すとされています。それを象徴するのがアップデートの仕組みの変化。実質的OS11の従来ファイルの総入れ替えに相当するレベルとみられ、理由は現行の「Nickel(ニッケル)」OSコアをベースにするOS11が次世代では「Germanium(ゲルマニウム)」ベースとなり、新しい世代へ切り替わるから。

提供開始は本年後半予定ですが、「AI」搭載PC向けのCopilotキー、NPUを含む最新AI機能対応PCにはプリインストールの形で搭載、本年6月にも提供が行われる見込みとの情報が出ており、24H2の『General Availability(GA/一般提供)』自体は9月に見込まれていますが、実質的に「AI」PC向けへの提供はGAより先行しているようです。

将来的に開発中の新OSコアは新しいコード名「Dilithium(ダイリチウム)」が命名され、これは映画スタートレックで登場した「架空」の創作物質。 OSコア開発コードは長らく元素周期表に則って名付けられるのが従来パターンでした、「Germanium(Ge:ゲルマニウム)」の次は通常なら「Arsenic(As:ヒ素)」なのですが、有害物質のヒ素ではあまりにも印象が悪く避けられたらしいとのこと。

Windows12とAIの行方

おそらくMicrosoftが24H2を『Windows12』と呼ぶ可能性は限りなく低く、AI時代の到来アピールにとどまるのではないかと見られています。クラウド連携したCopilotを含め、今後は学習済み推論エンジンがさまざまな形でPCに搭載され、業務効率化をもたらしスマートに動作する機能やサービスが提供される未来像が語られているのが現状なのです。

直近でAIを用いて実現するものでは音声のテキスト書き起こしの自動化、ビデオ通話の高画質化、ノイズ除去、高度で実態に基づく検索機能などの補助機能。これまで以上にハイレベルなものに変わると言われています。

推論エンジンの実行は機械学習(ML)にかかる負荷より少なくなりますが、汎用的なCPUコアで実行するには、パフォーマンスと電力消費の両面で効率が悪いのが実情。そこでエンジンをより効率的に実行できる専用の演算回路を提供するのがNPU(Neural-network Processing Unit)と呼ばれるユニット。

現行のコンピューティングでは、ようやく推論エンジンの実行役に「NPU」や「GPU」ユニットが活用され始めましたが、IntelはNPUでは最新Core Ultraプロセッサで始めて対応。AMDやQualcommがこの分野では先行しています。こうしたNPU搭載プロセッサが登場しても、実際に多くのPCがNPU搭載モデルに置き換わるにはさらに数年を要するものと見られます。OS11が24H2以降に「AI対応」を強化したとして、こうした技術が多くの組織や企業で実務に急に活用されることは想定できないのです。

いくらNPUで効率よく推論エンジンを実行できるようになっても、これがPC買い換え特需を促す原動力となりえるのか?

将来的に「AI」PCのワードは頻繫に世間一般でも登場するのが予想されますが、業務自体が大きく変わるというよりもMicrosoftや業界関係者が次世代の方向性を示すキャッチフレーズとして連呼していると控えめにとらえておく方が実相を反映しているのではないかとも考えられます。

将来的な方向性は

そうは言ってもCopilot等のAIを皮切りに企業・組織における活用がさらに進化を続け、推論エンジンを含む周辺環境が整備され活用アイデアが経済全体の成長に有効であることが実際に「証明」されれば、AI処理性能が今後さらに求められ、PCのメインメモリは最低16GB以上が要求されコンポーネント供給側のユーザーニーズを喚起するとの予測もあります。

ただ実際にはMicrosoftが現状の最低システム要件に手を付けず「AI」向けPCに求められるスペックが高止まりするかは未知数。今後のAI技術の発展と導入に向けた動向次第で雲行きが変わりやすい不安定な情勢とも言え、我々ユーザー側はその動向に深く注視すべきでしょう。