ストレージエリアネットワーク(SAN)の活用の可能性

「SAN」(ストレージエリアネットワーク)は、かつては複雑で運用が難しいシステムを導入しても維持可能な人的リソースを持つ大企業等を対象としたサービスと言えました。ところが近年の価格低下により、SANは今や中小企業にとっても選択可能なオプションとなりつつあります。とりわけ大量データの管理や高速処理が必要なアプリケーションを運用している企業にとっては大きな魅力を持ちます。

NASからSANに移行すべきかの見極めポイント

  • 必要な性能が得られない
  • 拡張性の必要
  • 可用性や信頼性を揺るがす問題の頻発
  • データ保護要件を満たさない
  • アプリケーションニーズを満たさない
  • 仮想化技術導入によるインフラ運用や処理負荷の高まり
  • リソース集約と有効活用のニーズの高まり

一つずつ見ていきましょう。

NASの性能不足

データの転送や読み書き速度といった性能不足が露呈してくることが挙げられます。一般的にSANはNASより機能的にはるかに優れており、SANはストレージインタフェースに「ファイバーチャネル」(FC)と「iSCSI」(Internet Small Computer Systems Interface)のいずれかを採用、スループット(実効データ転送速度)の高さとレイテンシ(遅延)の低さで格段の差をつけています。

近年のFCでは128Gbpsのスループットが得られており今後も高速化するものとみられます。iSCSIの性能もこれに引けを取りません。

拡張性の欠如

より多くデータを管理しながら高性能アプリケーション等を実行するには、リソース利用状況や処理負荷の変化に合わせてシステム要件を見直すタイミングが生じます。しかしながら、そうした課題に従来のNAS製品では柔軟なスケールアップやスケールアウトが難しく、固定された構成が多いのが実情。とりわけ低価格帯の製品ほどその傾向が高いものです。

多くの中小企業にとり、自社の成長に応じて簡単に容量を追加できたり性能強化できることが望ましいもの。エントリークラスのSAN拡張は、必要なスイッチとディスク容量を追加するだけ。SANはディスク容量を数千台規模まで拡張できるのですが、一般的には中小企業に必要な容量はこれよりかなり少ない。拡張の最大のネックとなりやすいのはコスト問題だけです。

可用性と信頼性の喪失対策

ストレージシステムが突然ダウンする事態は避けたいのが本音。そうは言ってもNASがダウンした場合に利用するアプリケーションの処理が停止や遅延すると、業務の生産性に重大な悪影響を及ぼします。電源に冗長性を持たせていてもNASではSANの持つ脆弱性対策に比べて格段に劣るのです。

たとえばSANでは複数スイッチで相互接続されたコンピュータおよびストレージアレイで構成。ミッションクリティカルなシステムを想定して設計され、ストレージアレイのトラブル発生時に別のストレージアレイへと自動的に切り替えるフェイルオーバー機能がついており、万が一の場合にも自動的に迂回してデータをやりとりさせるためサービス中断の回避が容易なのです。

データ保護要件の未達成

バックアップやリカバリーといったデータ保護はどんな企業にも重大問題。問題を放置すれば重大事態を引き起こしかねません。NASには複数HDDを組み合わせ1 台のHDDなみに運用できる「RAID」(Redundant Arrays of Independent Disks)構成が取れるものも一部にはありますが、性能の低いNASではこうした構成自体とれません。

反面SANではストレージを集合的に扱い、一元的に運用管理できることでデータ保護の実現につながりやすい。管理者は複数ストレージを単一システムとして運用できるためデータ複製と保護が容易です。特にディザスタリカバリー(DR:災害復旧)機能を備え法令遵守にも役立ちます。他にもバックアップ、スナップショット(差分データの保持)、クローン(複製)といった機能によりデータ冗長性を担保できます。

アプリケーションニーズへの不満

たとえばNASを用いた小規模データベース管理システム(DBMS)を運用していた企業が、次第にユーザー数やデータ量の増加により高負荷なアプリケーション採用といった事態に直面したケース。こうした急激な変化にも対応できるストレージでないと業務を停滞させる要因となりえます。

メールサーバ・CRM(顧客関係管理)・大容量ファイルを扱うビデオ共同編集作業といった業務等に用いる場合は、SANを用いた方が優位なのは明白です。

運用・処理負荷の高まりへの対策

ハイエンドNASでは、サーバ仮想化やVDI(仮想デスクトップインフラ)などの仮想化技術との併用も想定していますが、インフラ仮想化に積極的な中小企業ではSANを利用した方がインフラの効率的運用につながりやすいと言えます。その理由としてはNASによる仮想化自体がサーバに大きな負荷をかけるから。

ストレージインタフェースに「ファイバーチャネル」(FC)を採用しているSANでは、FC利用に必要な処理をサーバCPU に代わって実行できるデバイス「ホストバスアダプター」(HBA)により、仮想化技術運用時のサーバ負荷を格段に抑えられる効果が高いのです。

リソース集約と有効活用の実現

ミドルレンジからハイエンドNASには管理者が複数台を集約して運用できる仕組みを持つものがありますが、ローエンドまたはミドルレンジ製品では、集中管理が難しく、データサイロ化につながりやすいのです。

SAN製品ならば管理者によるストレージシステムのプロビジョニング(配備)、制御、保護を一括して実行。これによりサイロ化の解消や管理性の向上、リソース利用率の向上が容易であり、業務要件の変更や急なスケーラビリティ再設計にも対応可能です。