Wi-Fi「7」の導入が進まない原因は
標準化団体IEEE(米電気電子技術者協会)による新規格IEEE 802.11be(Wi-Fi7)の標準化はまだ完全には完了していません。そうは言ってもある程度策定されたドラフト版の仕様に基づき新規格に準拠した対応製品が続々と登場していますが、依然として企業における導入は計画中がほとんど。順調に普及しているとは言い難い状況です。
機能のおさらい
旧規格と比較して「超高速」「広帯域」「低遅延」「高信頼」「安定的」といった特徴を備え、主な機能は以下になります。
- 通信速度の超高速化
- 最高速度は理論値で46Gbps
- 帯域幅と通信容量の向上により平均通信速度の大幅な向上が見込める
- マルチリンクオペレーション(MLO)
- 1つの無線LANデバイスで異なる複数の周波数やチャネル(データ送受信用の周波数帯)で同時にデータを送受信できる
- 帯域を広く利用できるため通信速度の向上が見込める
- チャネルの一つが使えなくなっても、デバイスは利用可能な他のチャネルにスムーズに切り替えられるため、安定的に接続を維持できる
- プリアンブルパンクチャリング
- 干渉を受けたチャネルを無効化、空いているチャネルを使用できる
- 複数デバイスの同時利用によりネットワークが混雑している環境でも通信品質が安定しやすい
活用へのユースケース
広い帯域幅を必要とするアプリケーション利用には、導入がおすすめです。たとえば、以下のユースケース。
- 高精細なWeb会議
- 動画配信
- 3Dモデリング
- 医療用の画像処理
- AI(人工知能)やML(機械学習)
- AR/VR/MR
- 高速なセキュリティアップデート
- 大学など教育機関における大人数での双方向授業
旧世代デバイスとの新旧交代
「7」導入をためらう理由として「以前の規格をまだ活用中」であることがあげられます。たとえば「6E」規格は、「6」の通信速度、通信容量、カバレッジ(伝送範囲)をかなり改善しており、いまでも十分な能力を備えていると考えられているためです。
また「7」規格に準拠したデバイスの種類や数が不足していることも、導入を妨げている要因です。無線LANを利用する古いクライアントデバイスの多くは新規格に準拠しておらず、準拠したクライアントデバイスを確保するには相当のコストがかかるもの。しかし準拠したクライアントデバイス自体は現在、各メーカーから登場しつつあります。
ただし古いデバイスでは使えないのではと懸念される方もおられますが、新規格には古い機種にも互換性があり、前世代のものでも使用できるのがメリットの一つなのです。
専門性を要する設定の複雑さ
また新規格を導入するには専門的な知識が必要となっており、普及の妨げになっています。
たとえば1つの無線LANデバイスで異なる複数の周波数やチャネルで同時にデータを送受信する「マルチリンクオペレーション」(MLO)技術、16×16の「MU-MIMO」(マルチユーザーMIMO)などはその典型例。
こうした技術を理解したうえ、適切にパラメーターを設定、安定的運用を目指して既存ネットワーク環境に組み込むことは一筋縄ではいきません。目玉であるMLOは複数の無線帯域を同時に管理、各帯域のチャネル設定、出力方法などさまざまなパラメーターを調整する必要があり、高度なネットワーク技術の理解と施工技術を要するものです。