HDD技術のさらなる進化

HDDメーカーのSeagate社は本年1月、記録密度向上をもたらす「Mozaic 3+」等を発表、これはプラッタ(データ記録用の磁気ディスク)1枚当たりに3TBのデータを格納でき、プラッタ10枚を搭載するHDD1台につき30TBの大容量。HDDは容量の面で飛躍的な拡張を遂げつつあります。

過去

今世紀に入り、1TBの容量を誇るHDDの登場以来、HDD容量は拡大を続けてきました。これには記録密度向上への情熱を持ち技術開発に挑んできたメーカーの並々ならぬ努力があります。たとえばプラッタを同心円状に分割した記録領域であるトラックを屋根瓦のように重ねて配置する手法「SMR」(Shingled Magnetic Recording:シングル磁気記録方式)はその一つ。

世界的なデータ利用量の増加に伴い、企業保有のデータ量もまたオンプレやクラウドを問わず増え続けているのが現状ですが、大容量かつ低価格のストレージを求め続ける企業側の思惑は外れ、HDDは想定していたほど容量は伸びず、近年では頭打ちとも言える状態でした。

新技術の登場

そうしたなか、Seagate社が開発した「HAMR」(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録)と呼ばれる技術。熱を利用してデータ書き込みの信頼性を高めるものです。

こうした技術によりプラッタへの保存可能なbit数である記録密度は大きく向上、3.5型のHDDに10枚のプラッタを搭載できる技術と組み合わせ、HDD容量の増加につながっています。基盤技術を用いて将来的にさらなる高密度化が可能とされ、プラッタ1枚当たり4TBと5TBの開発が進行中、HDDの1台当たりの容量は数年後には「50TB」超えが見込まれています。


企業活動への影響度

こうした技術を活用してテラバイト(TB)当たりのコストおよび消費電力量の双方の削減が期待されています。これは大量のHDDを利用している企業、消費電力量の削減を含め厳格なサステナビリティ(持続可能性)における目標を持つ企業に大きなメリットをもたらすものと言えます。

影響が高い領域がクラウドサービス、こうした技術はデータの長期保存を用途とするアーカイブ用クラウドストレージの価格を下げる要因となりえます。クラウドベンダーの利益が拡大したり、新たなストレージサービスのメニューや用途が生まれる素地も考えられます。企業は豊富なデータを長期間にわたって保管でき、将来的にさまざまな用途へのAI(人工知能)モデルへの活用が予見されるからです。

オンプレミスインフラであっても、この新技術を生かして限られたスペースと低電力でより多くのデータの保存が可能となります。データの発生源に最も近い場所「エッジ」でのAIアプリケーション化、新アプリケーションの実現にも有利です。エッジを用いてデータを保存できれば、AIを使ったデータの新たな活用策も生まれます。

近い将来に到来する「50TB」HDD時代、データセンターやデジタルサービスにどのような影響をもたらすのかまだまだ未知数ではありますが、企業・組織活動へインパクトの大きいものになると見て間違いはありません。

SSDとの競合戦略は

HDDが進化を見せるなか、SSDメーカーはそれをどのように捉えているのか。
HDDに搭載する部品の複雑化などコスト増も考えられます。これはHAMRのようにデータの書き込みに熱を使用する技術を採用した場合、追加の冷却システムが必要になると想定できるため。

ストレージ市場でHDDと競合する一部SSDメーカーは、コストでHDDと勝負できると見ているようです。着目すべきコストが消費電力量や冷却コスト。HDDが新技術を搭載して部品が複雑化する結果、コスト増になると見込んでいるからとも言われます。

そうは言っても容量当たりのコストでは、HDDはSDDよりも依然として安いのは明白。昨年末の時点での調査結果でSSDはHDDよりも1GB当たり25~50%ほど高いことが報告されています。今回発表された容量30TBのHDDもコンシューマー向けではなく大規模データセンター向け。データセンターへの販売でコストを低く抑えることを狙う戦略がかいま見えます。

ストレージ戦略を左右するHDDとSSDですが、どちらが企業や業務にとり優位性が高いか判断する際には、コストパフォーマンスや電力消費量、耐久性などを含むあらゆる指標を細かく分析、検討したうえで採用できるか問われてくるのです。