マイナカードを用いたデジタル化の未来像は

政府主導による「デジタル社会のパスポート」と位置付けられたマイナンバーカードやマイナポータルサイトを始めとするデジタル化推進策。

日本国民のマイナカード総保有枚数は約9,200万枚(本年3月末時点)にのぼり、総人口における保有割合は約74%にまで達します。昨年末時点の運転免許証保有者数約8,200万人を優に越え、申請枚数は1億枚を突破。名実ともに日本で最も普及した身分証となったのです。

先だって政府・自治体は一丸となってカードの普及・利活用促進に向けたマイナポイント特典キャンペーンを実施、一層のカード機能の拡充を図ってきました。昨年だけでもアンドロイドスマホの電子証明機能搭載や「マイナポータル」の大幅刷新が実現しましたが、別人の保険証情報がマイナ保険証に誤って紐付けられるトラブルもまた頻発。国民のカード離れや返納と言った不信感を煽る結果も生じています。

今回はこの話題を取り上げて解説します。

新たなる活用策

次の一手として取り沙汰されているのが、運転免許証との一体化。カードの将来像を考えるうえで大きなトピックとなりそうです。果たしてカード自体が運転免許証代わりに使えるようになるのか?

一体化のメリットとして挙げられる住所変更手続きの簡素化。これまで転居の際には市町村役所への届出と並行して運転免許証の住所変更を警察や免許センターにも申請する必要がありました。一本化されれば複数箇所に届け出る必要がなくなりメリットは大きいと言えます。また免許証を携帯せずにカードだけで運転資格を証明できます。

一昨年4月に公布された改正道路交通法では、カードに免許関連の情報を電磁的に記録する規定が整備され、免許情報格納済みカードと従来の免許証を併用、あるいはカードを主体として従来型免許を返納させるといった運用が想定されている模様です。

さらに進展しつつあるのが健康保険証利用と言え、カード保有で免許証にも保険証にもなる一石三鳥のメリットを生み出します。免許不携帯の違反が減り、たとえば旅行先で体調が悪くなっても医療の恩恵を享受できるのはとても便利です。

具体的導入スケジュールは

デジタル担当大臣は、X(旧Twitter)へのポストで免許証一体化策に関して「本年度中に始められるように調整していますが、正確な時期は追って発表する」としています。

昨年6月には首相直属の「デジタル社会推進会議」にて「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定。補足資料でも免許証一体化策は「本年度(令和6年度末)までの少しでも早い時期に運用開始予定」とされています。

スマホ本体への公的本人確認の機能搭載も

閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」には、たとえば免許証の更新手数料引き下げなど具体的検討も記載されています。免許証一体化に向け、警察庁および各都道府県警で管理システムの共通基盤集約が進められており、それに伴う相当の行政コスト削減が見込まれ、手数料引き下げなどの負担軽減効果が見込まれるためです。

また免許証情報をスマホ等に記録できる「モバイル運転免許証」についても検討が始まりました。デジタル庁は複数の資格情報を格納する汎用システム整備を進める方針であり、免許証についても同システムの活用の検討を始めています。スマホ免許証の実現も期待できるのでしょうか?

医療現場でも進むデジタル化

デジタル化の将来を探るうえで次なるトピックは、従来型の健康保険証の廃止です。

カードを保険証として利用できる制度である「マイナ保険証」は21年10月にスタート。一昨年6月の「マイナポイントキャンペーン」において健康保険証登録がポイント受取の条件となり、多くの国民が利用できる状態となっています。

政府は従来型健康保険証の廃止を閣議決定、廃止期日は本年12月2日。同日以降は従来型の保険証は新規発行されませんが廃止後最長1年間は、現行の保険証が利用可能。マイナカード取得や保険証利用はあくまで任意であるためマイナ保険証未利用者をフォローする「資格確認書」発行と送付も同時に行われます。

マイナ保険証利用メリットは

たとえば医療費が高額になったときの補助制度。公的医療保険制度には、1カ月に自己負担した医療費が所定限度額を超えないようにする「高額療養費」補助があり、医療機関からの請求額が限度額を超えた場合、超過分については加入健康保険組合から戻る仕組み。

補助を受けるには書類申請による手続きが必要、医療機関窓口でいったん請求額どおりに医療費を支払い手続き後に還付されるか、もしくは「限度額適用認定証」書類を健康保険組合や役所に発行してもらい受診、医療機関での請求額を限度額まで抑えてもらうかのいずれか。後者の限度額適用認定証であれば医療機関からの請求額が限度額に達すればそれ以上の請求はされず、一時的な立て替えはなしで済みますが、事前に認定証を発行しておく手続きは必須です。

マイナ保険証であれば限度額適用認定証なしで1カ月の医療費が限度額を超えた場合、それ以上の支払いは不要です。ちなみに医療費の自己負担限度額は年齢と所得に応じて定められ、69歳以下で年収約370万円から770万円の会社員の場合、かかった医療費にもよりますが1カ月の限度額は8万円台~9万円台が目安。マイナ保険証を用いれば都度の手続きをせずとも、1カ月の医療費の窓口負担額が目安水準におさめられるのです。

確定申告の際の医療費控除等にも使える

高額療養費制度を利用しても医療費が高額になった場合、その年の所得税や住民税で医療費控除を適用して税負担を抑えたいケースがあります。そうした際、適用には確定申告が必要です。

会社員や公務員は年末調整にて税申告を済ませる方がほとんどで不要ですが、自営業など確定申告をする必要のある方は、1年分の医療費の領収書を保管集計するには手間暇がかかり、負担が大きいもの。そのため医療費控除を利用したことがない方も多いようです。

マイナ保険証利用ケースでは「マイナポータル」サイト上に対象期間の『医療費の合計』額などの医療費に関する情報が自動計算されて表示。この情報は所得税の電子申告システム「e-Tax」に連携して確定申告書の作成に活用できます。医療費控除に必要なデータをマイナポータルから取り込み自動入力でき、入力や計算の手間を大幅に削減できます。

確定申告手続き自体もe-Taxとマイナカードを連携してスマホのみを用いて完結でき、マイナポータルからの自動入力は医療費やふるさと納税(サトフル)や生命・地震保険などの情報にも可能であり、医療費以外の控除の適用にも使えます。

年末調整の際における保険会社からの控除証明書の勤務先への提出忘れ、確定申告による税の軽減効果が高いにもかかわらず手続きの煩雑さゆえ未対応と言ったケースでは、マイナポータル活用により医療費控除手続きの効率化をもたらし確定申告作業のハードルが下がるため、税の軽減へとつながりやすいのです。

その他の有効活用策

たとえば出生届とカード申請書の一体化へ向けた取り組み。カードは新生児でも取得可能ですが、これまでは写真撮影が必須であり、実際には両親・保護者の判断によります。この枠組みが12月までに変わりそうです。1歳未満の乳幼児であれば顔写真がなくても申請可に、さらに出生届の提出時に同時手続きができる旨をデジタル庁が表明しており重点施策と言えそうです。

またカード活用による救急業務の迅速・円滑化も計画されています、具体的には通報で駆けつけた救急隊が、傷病者本人や関係者から事情を口頭聞き取りにとどまらない、カードも活用した正確かつ素早い容態状況を把握させる試みであり、本年度末をメドに全国展開される見通しです。救急隊はカード読み取り装置とタブレット端末を装備。隊員は、保険資格のオンライン確認システムを通じて傷病者のかかりつけ医療機関、既往歴、薬剤情報などを参照でき、業務全般の効率化が期待されます。本年、東京・大阪市・名古屋市を筆頭に各都道府県の消防本部にて実証実験が行なわれる予定です。

先述の通りアンドロイドスマホではカードの電子証明書保存が可能。これを用いた各種行政手続きの窓口である「マイナポータル」へログインも可能です。しかしスマホに搭載されるのはあくまで電子証明書のみ。カード表面に記載された氏名・住所・生年月日・性別の「基本情報」や顔写真をスマートフォンに表示させ、対面にて本人確認するといった用法には非対応でした。ところがこうした券面ベースでの本人確認もスマホを用いて可能になる見込みです。関連法案は閣議決定後、国会提出されました。成立後速やかに運用が開始されるはずです。

また以前はカード保有者が海外赴任したり、留学時には一度失効する仕組みだったのですが、本年6月以降は海外転出時にも継続利用できるよう切り替わります。在外公館にてカードを申請したり、受け取ったりすることも可能です。国境をまたいだ利用や外国籍住民との関わり方では、「在留カード」とマイナカードの一体化もまた検討されています。

次世代マイナカードの登場には

免許証との一体化が予定される本年ですが、将来を見据えたカードの10年目の更新が2年後にスケジューリングされています。カードには通常10年の有効期限が設定されており、発行開始の初年が16年だった場合には26年から更新サイクルが始まるのです。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」ではサイバーセキュリティ強化へ向けた高度暗号化アルゴリズム導入や偽装防止技術刷新の観点から次期マイナカード導入方針が掲げられ、検討タスクフォースが設置され最終とりまとめ案が示されました。カード表面から性別記載を除外、裏面にはマイナンバーの表記を継続する方向で調整されています。生年月日もまた和暦から西暦への変更提案がされています。電子証明書の有効期間の5年から10年への延長も核心部分。券面デザインも変わり、富士山イラストを表面背景に記載する方針です。

デジタル庁のカードを用いたデジタル化へのロードマップでは確定申告などに用いる公的個人認証の開始や旧氏併記への対応、住民票発行「コンビニ交付サービス」が既に実現しており、免許証一体化政策は約8,000万人超の免許保有者に影響を及ぼすため今回重要なメルクマールとなりえます。そうは言ってもカードへの機能集約があらゆる分野で進めば紛失時の重大な懸念発生リスクも高まります。そうした懸念材料にも有効な対策を打ち出せるのかもまた問われます。

使いやすさと言った利便性の高さからセキュリティ対策や防犯にも強い機能などが求められるため、互いに相反する要素であっても兼ね合わせたものが理想形です。デジタル化社会の到来に合わせた最適な業務体制の構築と効率化や生産性向上の実現には欠かせないカードであり、国民の付託に応えられる有効なシステム開発と導入に向けた不断の努力が今後重要になってくるであろうことは論を俟ちません。